大台ケ原山
1,695m(日出ケ岳) 奈良県・三重県
大台ケ原駐車場(7:40)→(8:06)分岐 →(8:14)日出ケ岳(8:20)→(8:31)正木ケ原 →(8:53)尾鷲辻 →(9:05)牛石ケ原 →(9:16)大蛇嵓(9:27)→(10:13)シオカラ谷(10:18)→(10:53)大台ケ原駐車場
【歩行時間 2時間57分】
大台ケ原山は、紀伊半島の北東から南西に走る紀伊山地に属する山です。世界遺産に登録された「紀伊山地の霊場と参詣道」の一角である大峰山脈(八経ケ岳や山上ケ岳など)のように古くから修験道者によって登られた山とは違い、近世まで人跡未踏の地であったそうです。年間 5,000ミリという世界有数の雨量、複雑な地形、鬱蒼と生い茂る樹木や背の高い笹竹などにより暗いイメージがあり「魔の山」とか「迷いの山」とか呼ばれていたようです。現在では、大台ケ原駐車場まで県道40号線が開通して、多くの観光客で賑わう山に変貌しています。大台ケ原山もその名のピークはなく、この付近の最高峰の日出ケ岳を登り、他では類を見ない景観の正木ケ原や大蛇嵓(ダイジャグラ)を見て歩きます。
宿の大台荘は満員御礼で大部屋しか空きが無く女性が大半のツアー客と同宿となったのですがこれが運の尽きで、このツアー客達がご来光を見るために朝4時頃から枕元でガサゴソ準備を始めたものですから寝てもいられませんでした。明け方には小雪もちらつきました。ツアー客が出発して静寂が戻りましたが、二度寝するほどの時間もなく大部屋で神戸からお見えになったご婦人たちと大台ケ原の話をして過ごします。待ちに待った朝食を済ませ、直ぐに出発することにします。
今日は風が強く曇り空で、今にも雨が降りそうな気配です。気温も恐らく一桁でしょう。昨日までの晴天が嘘のようで、多雨で著名な大台ケ原の面目躍如です。
大台荘とビジターセンターの間にある散策路を日出ケ丘に向かいます。
シラビソやブナの樹林帯の中の平坦な道で、観光客向けに綺麗に整備されています。
石とコンクリートで作られた階段を登ると僅かで正木ケ原への分岐に着きます。
左手には日出ケ丘の山頂が見えます。
尾根を進み木製の階段を登ると日出ケ岳の山頂に着きます。
ご夫妻とおぼしきご年配のお二人が居ます。山頂には立派な展望台が設置されていて登ってみます。
周りには遮るものが無く360度の展望です。という筈でしたが生憎の天候で眺望は望めません。
微かに尾鷲湾の海岸線が確認できます。
昨日登った大峰山方面もほとんどの山が霞んで見えません。ご夫妻が展望台に上がってきて、あちこちを撮影しているのでツーショットを撮って差し上げます。
風も強いし眺望も無いし長居する理由はないので、ご夫妻との話しを切り上げ展望台を降り正木ケ原に向かいます。
先ほどの分岐まで戻り、木製の階段を急ピッチで登りきると正木峠で、そこは樹木の墓場でした。
50年ほど前までは、全国的にも珍しい針葉樹のトウヒの森であったそうです。
ところが1959年の伊勢湾台風の直撃で多くの木が倒され、それ以降、太陽の日が届くようになった樹床のコケ類が死滅し、代わってイトザサが繁殖しました。
そこにササを主食にする鹿が急激に増え、大事な木の皮まで食べ尽くし、現在のような大規模な立ち枯れが発生してしまったそうです。
地面にはイトザサが生えていますが、山全体が死んでしまったかのように感じられ呆然と周囲を見回します。
気を取り直して木製の階段を下り正木ケ原に向かいます。
若いカップルが何やら楽しげにお話しながら先を歩いています。邪魔をしないようにスピードを上げて追い抜きます。正木ケ原に設置された「樹木を大切に」と呼びかける看板に頷かないわけにはいきませんでした。
正木ケ原を過ぎると直ぐに尾鷲辻の分岐です。大台ケ原駐車場への道を右に分けて左へ進みます。
左側に東屋があり数人のハイカーが談笑しています。
「おはようございま~す」と声を掛けながら通り過ぎます。「おはようございます」が返ってきます。心が和む一瞬です。
平坦な道を快調に歩くと前方が開け、一面がイトザサの牛石ケ原に出ます。右側に神武天皇の像が建ち、左前方には大きな石があります。
この石は牛石といって昔このあたりにいた牛鬼という怪物を高僧がとらえてこの石の下に封じ込めたそうです。この石を叩くと大雨になるという伝説があり叩くことは止められています。
牛石ケ原を後にいよいよメインイベント「大蛇嵓」へ向かいます。大蛇嵓への分岐には僅かの距離で、下り気味の道を歩きます。小さな子供を連れた若夫婦とすれ違います。幼児でも見にいけたようなので一安心します。大蛇嵓の呼び名は大蛇の背に乗っているような感覚から付けられたそうです。
大きな岩の基部を回り込みその先の大岩の天辺に登ると前方の視界が開け、広大な山岳風景が目に飛び込んできます。素晴らしい!紅葉もとても綺麗です。
岩の突端に若者が5人屈んでいます。彼らもこわごわ居るみたいです。何しろ約800mの崖の上ですから。
彼らに占領されているので、戻るまでここで写真を撮ることにします。少し靄がかかっていますが十分満足できます。右側の垂直に切り立った断崖も面白い模様をしています。
少しすると若者たちがこちらに引き上げてきました。いよいよ私も突端部に進みます。カメラだけ持って前に傾斜した馬の背のような岩を前に進みます。突端周囲にはフェンスが付いていて安全対策がなされています。
周囲の景色を撮るために岩の先端に立つと強風で体勢が不安定になります。時間が経つと少しずつ恐怖心が和らいできます。高さに慣れてきたのでしょうか?
岩の天辺に戻ると、中年の男女四人が来て景色を見て歓声を上げます。彼らに場所を譲って私は大蛇嵓を後にします。
大蛇嵓分岐では日出ケ岳でお会いしたご夫婦とすれ違いました。「良い景色ですよ」と言うと「急いでいかなくちゃ」と奥様が言って嬉しそうに歩いて行かれました。
この分岐の傍にこの先は急で荒れた道であることを知らせる看板が立っています。気を引き締めて歩くことにします。歩き始めはブナやツクシシャクナゲなどの林の中を穏やかに下ります。
樹間からさきほどまで居た大蛇嵓の岩場が見えます。
大蛇嵓に人影が見えます。あんな崖の上に居たと思うとゾッとします。
少しガレた急坂は僅かで吊橋の架かったシオカラ谷に着きます。
三組のグループが河原で休んでいます。河原に降りて谷の流れをカメラに収め、200mの登りにかかります。吊橋を渡ると石の階段が続きます。息が上がるので立ち休みをしながらゆっくりと歩を進めます。
ぐんぐん高度を稼ぎます。足が悲鳴を上げそうになる寸前に一旦階段が終わります。
平坦な道を進んでいくと街着のカップルとすれ違います。前方に階段を下る四人組みが目に留まります。
あの階段を登りきれば終わりのようです。四人組も何も持たずに歩いています。確かにこのコースを歩くのに登山姿は大げさなのかもしれません。
石の階段を登りきり、ブナとササの林を進むと大台山荘が見えてきます。あと少しで終点の駐車場です。
大台山荘への分岐まで来るとかすかに車の音が聞こえ、駐車場が近いことがわかります。林を抜けると売店の横から駐車場に飛び出します。
大型バスや乗用車が並びあちこちで人が往来しています。現実の世界に戻ってきました。
売店で山バッジだけは買いましたが、お土産も買わずに大台ケ原を後にします。
帰路の大台ケ原ドライブウェイは紅葉の真っ盛りで、多くの写真家が路肩に車を止めて撮影していました。
余り汗はかいていませんでしたが、気持ち良く帰るために湯盛温泉「ホテル杉の湯」でサッパリしてから、レンタカーを返す近鉄「大和八木駅」に向かいました。