蛭 ケ 岳

1,673m  神奈川県

2007年10月28日()  晴れ
【メンバー】 単独

塩水橋(6:25)→(6:55)登山口 →(7:05)休憩・着替え(7:10)→(7:20)天王寺峠(7:25)→(8:05)尾根上(8:15)→(9:00)休憩(9:10)→(9:31)堂平分岐 →(10:05)木製階段下(10:10)→(10:25)丹沢山(10:55)→(11:24)休憩舎 →(11:31)不動の峰 →(11:41)棚沢ノ頭 →(11:57)鬼ケ岩 →(12:25)蛭ケ岳(12:45)→(13:40)休憩舎 →(14:11)丹沢山(14:30) →(14:54)堂平分岐 →(15:40)林道終点 →(16:12)短縮登山道入口 →(16:50)塩水橋

【行動時間 7時間15分】

長年の課題だった「蛭ケ岳」へ登ってきました。
「丹沢」は今では私のトレーニングの場であり、中でも塔ノ岳へは回数を忘れるくらい登っていますが、塔ノ岳よりも奥の地域に行かなければ「丹沢」の本来の良さを味わうことはできないと言われていました。蛭ケ岳を紹介するガイドブックでは山中1泊する計画しかなく一番近くて遠い山でした。会社の先輩から夢にまで見た丹沢主脈縦走のお誘いがあったのですが、仕事の関係でお断りしたのがきっかけとなり、日帰りで蛭ケ岳を往復した記録をWEBサイトで見つけ、チャレンジしてみようと衝動的に思い立ったのでした。

左が本谷林道入口・右は秦野清川線です

塩水橋を起点に天王寺尾根から丹沢山に登り、そこから蛭ケ岳を往復して塩水橋へ戻るというものです。
このコースの「’05昭文社の山と高原地図」の標準歩行時間は9時間35分で、かつて経験したことの無いロングコースとなります。
塩水橋までマイカーで入り、閉鎖された本谷林道ゲートの入口付近に車を留めます。ゲート脇には駐車車両が6台ほどあり、既に皆さんは出発されていて、取り残されたようで何故か焦ります。

本谷林道を歩きます

朝の青空に月が見えます

台風一過の青空が広がっていますが、半袖のTシャツでは肌寒くインナーダウンとシャツを着込みます。出発したのは予定より大幅に遅い6時25分でした。
昨日の台風の影響で沢山の落ち葉が林道を覆っています。直ぐに右に瀬戸橋が架かり塩水林道が分かれていますが、天王寺尾根の登山口へ行くのでこのまま本谷川沿いを直進します。
本谷川の右岸を遡上して左岸を歩くようになると少しずつ体が温まってきたので歩きながらインナーダウンを脱ぎます。

天王寺尾根の登山口です


インナーダウンをザックに入れて歩き出すとふと天王寺橋の名前が目に入りました。登山口の橋です。振り返ると右斜め後ろに登山口に立派な指導標がありました。危うく通り過ぎてしまうところでした。小さな沢の左岸沿いの登山道は直ぐに右岸に渡り返します。50センチほどの細い道で沢側に傾斜した滑る岩で歩きにくい箇所もあります。

小沢沿いの山道です


再び左岸に渡り返す辺りで、体も温まってきたのでTシャツ1枚になります。今日は体力勝負の登山と覚悟してきたのですが、歩き始めから足は重いし、眠気はあるしで先が思いやられます。先ずは天王寺峠まで杉林の中の急坂を黙々と登ります。

天王寺峠・標識が立つだけ

天王寺峠は小さく名前の書いてある道標があるだけで他には何もありません。
少し休んでから落ち葉の積もる杉林の中の急坂を登っていきます。
途中で何度か鹿除けの柵を越えます。どなたかのNetの山行記録に「ブナ林の道が分かり難い」とありましたが、確かに落ち葉が多くて注意しないと直ぐに登山道を外れてしまいそうです。林の中の道なので眺望も無く自分が居る位置も分かりにくいです。

急登です

鹿除け柵をくぐります

杉の植林地からブナの林に変わり、落ち葉の尾根を登っていくと、綺麗にペンキで塗られた道標が目に留まりました。
「祈る・元気に下山楽しい山行」と書かれています。裏へ回ってみるとここでご友人が亡くなられたようでその記念に建立されたみたいです。無意識に手を合わせていました。
更に登ると左側が少し開け、竜ケ馬場か日高でしょうか前方に山が見えます。
山肌は紅葉が始まっています。振り返ると大山も顔を出しました。視界が拡がると心がウキウキします。

鎮魂の道標がありました

竜ケ馬場でしょうか?

大山はわかりやすいです

時間的には堂平との分岐付近まで来ているはずですが、一向に道標が現れません。
気持ちが萎えてきたので、僅かに下って登り返したところで休みます。
この辺りは紅葉が進んでいて、木々が赤や黄色に染まっています。思いがけずに紅葉が楽しめて得をした気分です。

すっかり秋の気配です

樹間から山が・・

ササの登山道です

灌木の間から鍋嵐(817m)と思われる姿が見えました。
ブナの木が目立つようになって背の低い笹の道に変わり、更に登るとやっと堂平への登山道の分岐点に着きました。時間的には標準時間で歩けていたのですが、ここまでの道のりがとても長く感じられました。
丹沢山まで約40分なので10時過ぎには着けそうですが、時間の余裕が無いので先を急ぎます。

堂平分岐です

紅葉が進んでいます

丹沢山の直下にはガレ場があり痛々しさを感じます。山の崩落が進んでいるのを見るのは忍びないです。ここには鎖も取り付けられていますが、使わなくても登れる程度です。
ガレ場を登りきって振り返ると、丹沢三峰や大山などの山々が見渡せ、しばらく眺めていました。

ガレ場を登ります

ガレ場上から振り返ります

灌木の中の急坂を登ると木製階段の下に出ます。とても疲れていて登る気にならないので一休みすることにします。
この頃から「今日完歩できなくてもいいや」という弱気の気持ちが出てきていました。行けるところまで行って引き返してもいいと思うようになっていました。疲れがそういう気持ちにさせています。

木製階段が整備されています

木製階段を登り切ったところが、丹沢三峰への分岐で、ここを左へ尾根道を登っていくと5分ほどで丹沢山に到着します。
1年ぶりの丹沢山です。丹沢山頂には他の登山者は見えません。雪を被った富士山がきれいに見えます。
みやま山荘でビールとスポーツ飲料を買いおにぎりで早めの昼食にします。
山頂のベンチで寛いでいると一人また一人と仲間が増えてきます。単独行の方ばかりです。

丹沢三峰への分岐です

山頂に来るまでに見えた海がきれいだったとか、日帰りなので急いでいるだとか、山で出会った者同士で取り留めの無い会話を楽しみます。私は睡眠不足と疲れとアルコールの相乗効果で、睡魔に襲われ、行儀が悪いですがテーブルの上で横になります。
ゆったりと山頂を占領できるのも、昨日の台風のお陰で登山者が少ないためです。寝そべって空を見上げると秋とはいえまだ、日差しは強く顔がチリチリして焼けるようです。

丹沢山頂に着きました

つるべ落としを下ります


ふと気が付くと先ほどまで居た登山者は既に皆さん発っていました。少し寝入ってしまったようです。時計を見ると出発予定時刻を越えています。慌てて飛び起き出発準備をします。
寝起きで朦朧としながら丹沢山から「ツルベ落とし」といわれる急坂を下り始めます。

丹沢山を振り返ります


ここから未知の世界に入っていきます。
丸太で土留めされた階段をグングン下るのはいいのですが、帰りにはこれが登りになるのかと思うと気が滅入ります。
数十メートル先に若者二人の姿が見えます。彼らも日帰りグループなのでしょうか?

気持ちの良いササ原の尾根道です

100mくらい下ってから不動の峰(1614m・丹沢第2の高峰)へササ原の尾根道を登り返すことになります。予定外に時間を浪費してしまい、蛭ケ岳まで行く時間があるか気になってきました。
「秋の日はつるべ落とし」といわれ早く日が落ちますので、帰りの時間を考えると蛭ケ岳に12時30分までには着きたいところです。12時30分をタイムリミットにして、それを越えたら引き返すと決心し、行ける所まで行くことにします。

雪を被った富士山・手前のピークは檜洞丸

尾根道からの眺望は抜群です。近くに丹沢の山々、遠くには冠雪の富士山や南アルプスがずっと一緒です。
鞍部から少し登り返したところに建つ休憩舎を過ぎ、更に笹原の尾根道を登ります。丹沢山直下のガレ場の周辺には沢山のリンドウが咲いていましたが、この道にもチラリホラリと青紫色の花が目に留まります。赤や黄色に染めた木々と緑の木々が絶妙のバランスで山を飾っています。
時折強く稜線に吹き付ける風は、確実に冬へ向かっていることを感じさせます。

不動の峰のベンチで休む青年たちです

眺望もよく広々とした尾根の登山道を歩いていると気持ちが清清しくなります。まさに稜線漫歩とはこのことを言うのでしょう。本当に無理して来て良かったと思います。
不動の峰へ登り着いたのも束の間、一旦下ってから、棚沢の頭へ再び登り返します。この稜線のアップダウンは、丹沢表尾根を思い出させます。

帰路を急ぐカメラマンとすれ違います

富士の裾野まで見えます

棚沢の頭に向かいます

棚沢の頭から右にカーブをしながら僅かに下り、登り返すと鬼ケ岩に着きます。鬼ケ岩は二つの岩を鬼の角に見立てて名前が付けられたようですが、想像していたよりも小さなピークでした。
鬼ケ岩から鎖が付いた岩場の下りになります。道はしっかりと整備されているので危険な箇所はありません。下り終えてからやせた尾根を通過し、最後の登りとなります。

鬼ケ岩の角の間から覗く蛭ケ岳です

先を歩いていた二人の青年は、既に山頂近くを歩いています。やはり若い人には敵いません。タイムリミットの前に山頂に着くことができそうです。一歩一歩、ゆっくりと着実に歩を進めていきます。

蛭ケ岳への最後の登りです

蛭ケ岳山荘が目の前に迫り犬の吠える声が聞こえると山頂に到着です。この「吠える犬」は登山者の間では有名な犬なのだそうです。
山荘の左側へ回りこむと祠があり、更に進むと山頂の広場です。
山頂には1組のカップル、青年二人組みと単独登山者の5人がそれぞれの時を楽しんでいます。
正面には霊峰富士、左には愛鷹山、箱根連山、右には雪を被った南アルプス、さらには八ヶ岳連峰というように360度の展望が開かれています。

蛭ケ岳山頂は、丹沢山塊の最高地点です。

山バッジを買いに山荘へ戻ります。山荘への入口は木製のデッキの階段を登ったところにあります。
山荘に入るとご主人と年の頃なら60歳代のボッカさんが打合せをしていました。山バッジを求めるとご主人は「あるよ。証明だからね」と気さくに答え奥へ取りに行きました。

待つ間にボッカさんから「数年前まではビールを2ケースくらい平気で担いだけど、今はきつくてね。年だな~。」などと昔の話を聞かせていただきました。
山で出会う方々とは、何時でも気軽にお話ができます。皆さん共通するところがある(本当は人が大好きで寂しがり屋さん)から直ぐに共感できるのだと思います。打合せの最中に分け入ったので、バッジを受け取り山荘から辞します。山頂に戻って眺望を時間の許す限り楽しみます。

山頂には20分ほどの滞在で復路約4時間の下山に掛かります。
午後1時過ぎだと言うのに随分と日差しが柔らかくなったように感じます。帰り道のほうが気持ちにゆとりがあるのは、時間に追われていないためだと思います。登ってきた時と同じ道ですが、視線の角度が180度変わったことと、光線の影響で違う景色のように見えます。

鬼ケ岩も下からガレ場を含めて見上げるとそれらしく見えます。
例の青年二人組みが追い越していきました。私はマイペースを守って歩きます。

鬼ケ岩への登りです

本当の色が出なくて残念です

蛭ケ岳からの稜線を振り返ります

不動の峰へ登り返します

東側は切れ落ちています

不動の峰に登り返した辺りで振り返ると、歩いてきた道筋がササ原の中に一筋の線のようにハッキリと残っています。
午後の日差しを浴びて紅葉も色合いが変わって見えます。思わずカメラを取り出して写します。(カメラでは本当の色はなかなか出せません)富士山も今日は一日中見守ってくれています。

不動の峰から振り返ります

不動の峰から丹沢山方面を眺めます

木製階段を下っていきます

丹沢山への「つるべ登り」は、覚悟をしていた割には楽に登ることができました。丹沢山山頂でも長めの休憩をとります。テーブルに腰掛けてバナナを食べていると単独行の青年がカメラを持って近づいてきて、ここで写して欲しいといいます。「ここで写してもどこで撮ったかわからないよ」と言って丹沢山の表示板の前まで連れて行き、丹沢山の山名看板の横で写しました。そこまで歩いてくれとは遠慮して言えなかったのでしょう。

あまりノンビリもしていられないので、下山を続けます。
木製階段を下り潅木の林を抜け、ガレ場に差し掛かると、例の青年二人組みが岩のところで休んでいます。疲れたのでしょうか?目で挨拶して追い抜いていきます。
その直後にザレの階段を下っているとき石車に乗って尻餅をつきました。気を抜いてはいけません。態勢を整えて再出発です。

岩場から大山が見えました

尾根を歩くカップルです


少し先に蛭ケ岳山頂でお会いしたカップルが歩いています。私と同じように日帰りのようです。
お二人から先を譲られたので追い抜いていきます。ブナ林の道を快調に歩きます。

堂平への分岐に戻ってきました


堂平と天王寺尾根との分岐で少し悩みましたが、早めに林道に降りた方が日が暮れた場合には有利なことと、違う道を帰れば新たな発見があるかもしれないと判断して堂平へ向かうことにします。分岐からは潅木の中の急坂を下っていきます。沢を挟んで反対側の斜面で綺麗な紅葉も眺めることができました。

対岸の紅葉が綺麗です


落ち葉で登山道を見失う箇所もありましたが、無事に塩水林道終点に着きました。地図にはここから林道をショートカットできる山道があるように書いてありますが、どこが入口か分からないし、林道の方が歩きやすいと思いそのまま林道を下ることにします。塩水林道はくねくねと曲がった舗装道路で塩水川沿いを走っています。

塩水林道の終点に着きました


塩水橋までは所要1時間35分の林道です。林道なので歩き易さはありますが、さすがに飽きてきます。振り帰ったり、万歳をしたりして気を晴らします。途中で林道端に廃棄された空き缶を収集しながら歩く登山者を追い越しました。このような方が影で自然を守ってくれているのだと頭が下がる思いがしました。


右手の尾根が高度を下げて、塩水川との高低差も少なくなり、林道が右へ大きくカーブをした先に橋が見えました。今朝、塩水橋から歩き始めて最初にあった瀬戸橋です。瀬戸橋を渡り左折すると間もなく塩水橋に着きました。駐車スペースには3台しか車が残っていませんでした。



今回の山行は時間に追われてせわしないものでしたが、次回は余裕をもった計画で訪れたいと思います。