焼  岳 

2,393m(北峰)2,455m(南峰) 長野県

2008年7月5日(土)  晴れ
【メンバー】 妻 & 私

上高地バスセンター(6:30)→(6:58)焼岳登山口 →(8:18)休憩(8:25)→(9:12)焼岳小屋(9:30)→(9:49)焼岳展望台 →(11:22)焼岳北峰山頂(11:40)→(12:42)焼岳小屋(12:50)→(14:26)焼岳登山口 →(14:36)上高地温泉ホテル

【歩行時間 7時間15分】

上高地へ向かう釜トンネルを抜けて少しすると左側に斜面が崩壊している山が見えてきますが、これが穂高連峰の前衛峰「焼岳」です。
大正時代に焼岳の噴火で梓川が堰きとめられ上高地の名所である大正池が生まれたことは余りにも有名です。
今日は上高地バスターミナルから焼岳山荘を経て焼岳を往復するコースを妻と歩きます。

バスターミナル前のアルピコ売店でお弁当を受け取り、6時30分に梓川沿いを歩き始めます。
梅雨の季節に来るのは今回で3度目ですが、雨に降られたことがありません。今日も僅かに雲はありますが青空が広がり暑くなりそうです。
朝靄が立ち上る梓川に沿って小道を下って行きます。

西穂高岳、奥穂高岳、前穂高岳、明神岳などの高峰が揃い踏みでこちらを見下ろしています。これらの山の沢沿いには雪が残っています。
早朝の清清しい空気の中をお散歩するご夫婦とすれ違います。「おはようございます」と笑顔で気持ちよく挨拶を交わします。

田代橋で梓川を渡り、焼岳登山口の道標に従い左へ進みます。右に排水処理施設の建物を過ぎ、歩き始めて30分ほどで焼岳登山口に着きます。入口には焼岳は活火山で噴火の危険性があることを告げる看板が建っています。
登山口付近の下草が伸びて足元が露で濡れますが、直ぐになくなります。林の中の登山道は高低差が少なく、ハイペースになりがちです。

足元にはニシキウツギやベニバナイチヤクソウなどの花が咲いています。早池峰で撮影を失敗したギンリョウソウを妻が見つけました。
今日も日帰り行程で時間が少ないので、ノンビリ写真などを撮っている余裕はないのですが、ついしゃがみこんでカメラを向けてしまいます。妻が呆れた顔をしています。

小さな沢を渡るときに、小学生くらいの子供連れの若夫婦を追い越しました。最近、良く見かけるようになった光景です。自然志向の若い人が増えたのは嬉しいことですね。

時折、涼しい風が過ぎる樹林帯を進んでいくと、木の間越しに焼岳の山頂部が姿を現しました。何だかとても遠くに見えます。登山道が崩れかかっているところに出ると山全体が見えました。本当にこの山頂に行き着けるのか心配になってきます。

更に進むと学生らしい四人組に会いました。
最後尾の体格の良い女性は傍から見てもバテている様子で他人事ながら心配になります。この四人組も追い越して先に進みます。
アルミ製の小さな梯子が現れました。ガイドブックでは、幾つかの梯子を登るとありましたので、いよいよ急坂に差し掛かったみたいです。

大きな岩が登山道を塞ぐように転がっています。この山は活火山なので、何時、噴火するとも限りません。こんな岩に襲われたらひとたまりもありません。西側の視界が開けて草地の急坂を登ります。

更に進むと岩場を回りこむように鋼製ネットの橋が掛けられているところを渡ります。渡り終わったところにある鉄製の梯子の袂で小休止にします。


後からご夫婦が追い越して行きます。 鉄製の階段を登るのも軽快で山慣れた感じのご夫婦です。 7分ほど休んで先を急ぎます。


後方に大正池が見えます。


樹林帯を抜けてトラバース気味に登ると前方に人影と長い階段が見えてきます。ガイドブックに載っていた梯子です。
梯子の袂に着くと先ほどのご夫婦が、梯子を登る奥様の姿を撮影するために良いアングルの場所を探しているところでした。先にどうぞと言われ妻から登り始めます。妻は最近になって自分が高所恐怖症だと自覚したようで、下を見ないで登っていきます。

下でカメラを構えている私を見て、待機していたご主人が「振り向いて」と妻に声を掛けます。恐々と振り向く妻を撮影し、自分も登り始めます。

しっかりと固定された梯子なので予想に反し難なく登ることができました。


続く岩場の鎖場を登りきると、前方の視界が開けて正面に焼岳が見え、涼風が熱くなった体を冷してくれます。苦労した後にいただく自然からのプレゼントです。
この辺りから森林限界に近づいたようで高い木は無くなり、草原状の道を登って行きます。
緑の絨毯と立ち枯れの白い木と空とのコントラストが綺麗です。

ジグザグの道を登りきると緑色の屋根の焼岳小屋に着きます。小屋前にはカップルが一組居るだけで、空いているベンチで一休みします。未だ登頂前ですが忘れないうちに焼岳の山バッヂを買います。小屋番の方がとても感じの良い人で、上高地の名前の由来などを説明して下さいました。少し小腹が空いた感じなので、お弁当の半分を食べることにします。小さなかき揚げや鰙の天ぷらなどが入った美味しいお弁当でした。食べ終わって直ぐに出発です。

小屋から焼岳展望台までの登りでは、振り向くと奥穂高岳が山影から徐々に頭をもたげて見えてきます。汗して登ってきたことが報われる瞬間です。涼風が体の熱りを冷ましてくれます。西穂高ロープウェイの鉄塔や西穂山荘も見えてきます。昨年の3月に、妻と息子とともにロープウェイで登ったことを思い出します。焼岳小屋から10分ほどで焼岳展望台に着きます。ここから山頂までの道のりを目で追うと、かなり厳しい登りが待っていそうです。近くに居た男性は山頂へ向かう気は無いらしく、「登るのは大変そうだね」と妻に話し掛けます。

左から雲に隠れた笠が岳、抜戸岳です。

左から西穂高岳・奥穂高岳・前穂高岳

焼岳展望台からの溶岩ドーム

「行くよ」と言って展望台から鞍部へ下って行きます。ここの下りが帰りの辛い登りになるとは思いもよりませんでした。
鞍部は中尾温泉への分岐になっています。ここからはザレ気味の登りになります。
ジグザグに付けられた登山道はかなり踏み固められているのでズルズル滑るほどではありませんが、気を抜くとスリップしそうです。浮き石も多いので、落石にも注意が必要です。こういう登りは、焦らずゆっくり行くことです。とはいえ帰りの乗車時刻は決っていて、余りのんびりしてもいられません。

ザレ場を極端に嫌う妻は、歩くのが嫌になってきたようです。景色を眺める時間が多くなっています。登るにつれて硫黄の臭いがしてきます。岩の間から蒸気が噴出する横を過ぎて東側にトラバース気味に登ると岩が目立ってきます。見上げると迫力のある焼岳北峰の溶岩ドームが確実に近づいてきています。

左手に何かが動く気配を感じ、谷間の方に目をやると、ニホンカモシカがゆっくりと下っていく姿がみえました。山登りをしていて出会ったのはこれで二度目です。余り大きくなかったので未だ若いカモシカのようです。
ニホンカモシカは群れを作らず単独で生活するそうで、小さくても逞しさを感じます。

何度かの立ち休みを経て、やっと中の湯への分岐がある尾根に辿り着きました。宮崎県から松本市に転勤してきたという人懐こい若いご夫婦と少しお話をして、いよいよ山頂へ向かいます。
噴煙を上げる岩場の横をすり抜けて登り付いた北峰は360度の眺望です。

南側の南峰の向こうに雲に隠れた乗鞍岳、右へ転じると笠が岳からの裏銀座の山々、更に槍ヶ岳や穂高連峰など北アルプスの山々が一望できます。朝方よりも気温が上昇して雲が増えたため、すっきりとはいかないまでも、梅雨の季節としては満点といえるでしょう。
南峰の右には火口湖が見えます。上高地の大正池も望めますが、この雄大な景色の中にあっては一つの構成要素でしかありません。
山頂での滞在が短く後ろ髪を引かれる思いでしたが、この眺望を目に焼き付けて往路を下山します。

左が立入禁止の南峰と火口湖

穂高連峰の左側には槍ヶ岳が見えます

左下が出発した上高地

中の湯への分岐で梯子のところでお会いしたご夫婦が休んでいました。話をしていると何と同県人で、しかも私がホームグラウンドにしている丹沢山麓にお住まいとのことで大変驚きました。世間は狭いものです。ご主人は丹沢の鍋割山にほぼ毎週登られるとのことで、再会することを楽しみに、お別れしました。

ストックの先に見えるのは大正池

妻が嫌いなガレ場の下りも無事に過ぎ、展望台への登りに差し掛かったとき、急に左太ももの内側が攣りそうになりました。ここ最近、負荷を掛けた登山をしていなかったので、足が悲鳴を上げてしまったようです。だましだまし歩くしかありません。帰りの焼岳小屋ではコーラで喉を潤し、上手くすれば温泉に入れるかもしれないと一目散で下りました。

乗車バス集合時刻の50分前に日帰り温泉がある上高地温泉ホテルに着き、念願の入浴が叶いました。
勿論、風呂上りに黄金色に輝く泡立つ水もいただき、バスの中でもミニ宴会をしながら帰路につきました。
夏山シーズンの第一弾でしたが、とても慌しい登山となってしまいました。ゆっくりと余裕を持った日程で登ってみたいものです。

左の茶色の建物が日帰り温泉施設がある上高地温泉ホテル