北 横 岳

2,480m 長野県

1997年8月18日(土)  晴れ
【メンバー】 妻 + 長女 + 長男 + 私

ピラタス横岳ロープウェイ山麓駅 ──〔ロープウェイ〕── 山頂駅 → 坪庭 → 北横岳ヒュッテ → 北横岳山頂 → 七ツ池 → 坪庭 → 縞枯山荘 → 雨池峠 → 坪庭 → 山頂駅 ──〔ロープウェイ〕── 山麓駅


毎年恒例になっている夏休みの家族旅行で、今回は山登りにチャレンジすることになりました。
妻が色々なガイドブックの中から、景色が良くて、そこそこ標高があって涼しくて、初心者でも手軽に登れて、近くで観光も楽しめて、自宅からそう遠くない山という条件を満たしているということで、八ケ岳の「北横岳」に行くことになりました。
行程を計画している時は、北横岳だけではつまらないから雨池も回ってみようとか、時間があれば縞枯山へも登ってみようとか、夢は大きく膨らんでいました。

宿泊先の蓼科牧場近くの白樺高原ホテルを出て、マイカーで樹林の間のビーナスラインを10分ほど走ると、ピラタス横岳ロープウェイ山麓駅の大きな駐車場に着きます。
駅舎はスイスの山小屋風の瀟洒な造りでレストランや売店もあります。
このロープウェイ(往復¥1,800)は標高差466m、全長2,147mを約7分で登ってしまいます。
晴れているのですが、雲が少しずつ湧いています。山頂駅に着くまで天気がもってくれることを祈って乗車定員100人のゴンドラに乗り込みます。

時速約18kmの高速で登るので周りの景色がどんどん変わります。
車内放送の南アルプスや中央アルプスが見えるという案内に振り向くと、雲が出て少し霞んではいますが、中央アルプスの山並が見えその美しさに生まれて初めて味わう感動を覚えました。
束の間の感動に浸っているうちにロープウェイは山頂駅に到着します。

山頂駅周辺は坪庭といわれる溶岩の間にハイマツが密生している台地になっています。
ハイマツは、通常、亜高山帯針葉樹林より標高が高いところに生育するのですが、ここでは逆転していて珍しい現象なのだそうです。
時計回りの一方通行の周遊路を歩き始めます。

同じロープウェイに乗ってきた登山者が早くも休憩しています。どうしてだろうと思いながらも追い越していきます。
後に分かったことですが、標高1,771mから2,237mまでロープウェイで一気に登ってしまうので高度順応するために休憩していたのでした。
坪庭の周遊路から分かれて樹林帯の登山道を歩き始めます。
ここの登山道は折り返しの長い電光形に付いていて、日頃歩かない私には急坂に感じられます。
子供らは平気な顔をしてはしゃぎながら登っていきます。

僅か240m余りを登るだけだからと甘く見ていました。息が切れて体が前に進みません。
子供らが心配そうに立ち止まって振り返っています。大丈夫だから先に行くように言いましたが、余程苦しそうに見えたのか立ち止まったままです。
親父の威厳もあったものではありません。体力には自信があっただけに、不甲斐ない自分が情けなくなります。
それでも何とか北横岳ヒュッテまでたどり着きました。ここで大休憩することにします。

北横岳ヒュッテは羽目板張りの古そうな建物で、山小屋はみんなこのような造りなのでしょうか?「北横岳ヒュッテ」の文字が何とも下手くそに見えます。
妻が「もう帰ろうか」と登頂断念を口にします。ここまで頑張ったのだから絶対に登ると言って山頂を目指すことにします。
ヒュッテの横には七つ池への分岐があり帰りに寄ることにします。
この辺りから次第に樹林が切れてきて空が広がってきます。

赤土の滑りやすい道を登りきると南峰(2472.5m)に着きました。
後方には広がった雲間から中央アルプスの一部が見えます。
清々しい風が吹いてきます。達成感が沸々と湧いてきます。苦しかったけれど、登って良かったと思います。
ところが山頂はここではないみたいで他の登山者はもう少し先の方へ向かって追い越していきます。我々も後をついていきます。
南峰から少し歩くと石の祠や山名標柱が建つ北峰(2480m)に着きます。

山頂広場はあまり広くはなく、数人の登山者が休憩しています。
谷を挟んで向かいには蓼科山が均整のとれた円錐形の堂々とした姿を見せています。
下の方には樹林の間から小さな池が見えます。
残念ながら霧が上がってきて視界が悪くなってきたので七つ池に向かうことにします。
南峰に戻り赤土の道を下るころには次々と登山者が登ってきました。こちらは下山なので余裕があり元気に「こんにちは」と挨拶します。
登っているときにすれ違わなくて良かったです。あの時に言われてもとても応じる気力はありませんでした。

パンフレットに出ている古仙池を是非見たくて、北横岳ヒュッテの前の七つ池への道を左に入ります。
一つ目の小さな池を過ぎて、二つ目に現れた古仙池は、パンフレットで見た印象のとおり神秘的な池です。
池の辺にはコケモモの赤い実が生っていました。
七つ池では七つの池が見られるのかと思っていましたが、ここから先は通行止めで進むことはできませんでした。
少し休憩してから北横岳ヒュッテに戻り雨池に向かいます。

下り坂は快調に歩けます。何と楽なのでしょう。
登りでは見えなかった坪庭の全景も見ることができました。
坪庭の周遊路に合流し左へ進みます。
少し登りですがこの程度なら心配ありません。
周遊路を離れると木道が敷かれた八丁平に出ます。
左側に三角屋根の縞枯山荘が見えてきます。
山荘の背後には縞枯模様をした雨池山が見えます。この縞枯現象がおきるメカニズムは解明されていないそうです。

山荘の前を通り登山道の十字路になっている雨山峠を過ぎると、大きな岩が累々と並ぶ下り坂になります。
お昼ご飯も食べずに歩き続けてお腹も空いていたのでこの岩の上で昼食にします。
昼食といっても今朝、茅野のコンビニで買ってきたおむすびです。
お腹を空かせていれば何でもご馳走で、とても美味しくいただきました。
岩を登ってきた雨池を見てきたという人から見に行くことを勧められましたが、この岩を下ったらまた登らなければならなくなり、体力的にも無理だと思い雨池行きは断念して帰ることにします。

自然の中に入るにはそれ相応の基礎体力が必要なのですね。
そんなことを思いながら来た道を戻り、ロープウェイで下山しました。
それでも今回の山登りでは、印象に残る素晴らしい景色に巡り合えることができました。
山に登らないと見られない景色に再び出会いたいという欲求が沸いてきました。
生活パターンを変えて本格的に山登りを始めてみようかと思います。